私の生き方 in アメリカ

#21. 自分を癒し、思い込みを解き放って自由に可能性を広げてほしい ― ジャスパーきょうこ(NJ)

4/4/2024 | 私の生き方 in アメリカ インタビュー

今回は、ニュージャージー州で、ヨガを教えていらっしゃるジャスパーきょうこさんにお話を伺いました。

1.アメリカに来た経緯を教えてください。

ミュージカル女優になりたくて1985年に単身渡米、以来ニューヨークを拠点にしながら活動してきました。ブロードウェイミュージカルだけでなく、コマーシャルやモデルなどの依頼も舞い込み仕事は軌道に乗り、私生活では結婚や出産・子育てを経験して忙しくも充実した生活を送っていました。そんな中、あることが転機となりヨガの道へ進むことになったのです。現在は、ニュージャージー州へ移り、自然豊かな環境のなかで日々ヨガとセルフケアを教えています。

2.現在のお仕事について教えてください。

ヨガ指導者の養成と一般の生徒さんへのレッスン、オンラインスクールの指導と運営、ヨガの筋膜リリースグッズを販売するオンラインショップの運営を行っています。ヨガと一口に言ってもその中身は多岐に亘っていて、特にここアメリカには数多くの優れたシステムが存在します。私の場合は、身体の練習だけでなく、瞑想や哲学をはじめとするヨガの伝統的な学問も学んで理論を実践、生き方を改革してきました。現在ではヨガチューナップというアメリカ生まれのヨガシステムでマスタートレーナーとなり、日本支部を創立、指導者の育成に尽力してきました。私自身が東洋の人間ですし、神秘的な学問も大好きで、人間の第六感を頼りにする東洋医学には魅かれるのですが、いっときひどい身体の故障を経験し、それからは科学的なアプローチに関心を持つようになりました。ベースはヨガですが、筋膜リリースや身体の理学療法的な矯正運動に基づく療法を融合させ、ヨガだけでは難しかったセルフケアシステムを構築しました。東洋の伝承医学と西洋医学は平行線で流れていると思われがちですが、そのふたつの世界には相交わり合う部分が多々あります。私は両方が好きだからこそ、科学をベースにしながらヨガを教えるというスタイルに辿り着いたのだと思います。今は、自立神経を整える療法も取り入れ、対象者ひとりひとりが心と身体を自分で最高の状態にできるよう、理論と練習方法をコーチングしています。

3.どういった経緯で、以前のミュージカル女優から現在のお仕事へとシフトしたのでしょうか?

2001年に遭遇したニューヨークでの同時多発テロ事件が転機になりました。仕事もプライベートも充実していた暮らしが一変して内側から震撼するような心境の変化があり、人生このままでいいのかな、もっと社会に貢献できないだろうかと、これまでの自分の価値観が大きく揺さぶられました。確かにそれ以前から、少しずつ自分の仕事の在り方に疑問を感じ始めてはいました。ニューヨークで女優として活動する、という夢が叶って満足していたはずなのに、だんたんとそれがただの仕事以外の何ものでもなくなっていたんですよね。事件の直後は本当に、社会全体が何かしなきゃ、という雰囲気で、誰もがボランティアに奔走して、自分も何かをしたい気持ちに奮い立たされました。事件後しばらく女優の仕事もストップしていたことあって、自身を見つめ直す時間が増え、インスピレーションをもらえる人との出会いもあり、近所のヨガスタジオに通い始め、しかも気がついたら指導者育成コースを受けていたんです。女優業なんかそっちのけで私の日常はヨガの世界へと移り変わっていました。その後日本やアメリカ、アジア圏で指導者のためのワークショップを開催、フェスティバルで指導、など様々な機会に恵まれ、数多くの経験を積みながらヨガの道を突き進んできました。

次なる転機となったのはパンデミックです。ヨガを通して人々の心身の健康を手助けしながら自分も自分で癒してきたつもりでしたが、コロナ禍では不安感に苛まされ眠れない日も続き、自分を癒す作業はまだまだ終わっていないことに気づかされました。その頃学んでいたポリヴェーガル理論という神経の学問をより深く学びたい、と駆り立てられ、療法として実際に教えてくれる指導者を探し、カナダの師匠のもとでオンラインで3年半勉強し、自身のスタイルをさらに確立していきました。拠点もニューヨークからニュージャージーに移し、今では自然に囲まれた環境のなかで指導にあたっています。今年の9月には、アマゾンから「わかりやすいポリヴェーガル理論」という新書の出版にも漕ぎつけることができました。

4.現在のお仕事の楽しい点、大変な点は何ですか?

事業のほとんどを自分一人でやっているので、大変なことは色々あります。例えばコロナ禍は本当に予期せぬことが沢山起こりました。ロスの港が何ヶ月も麻痺、日本への商品の輸出がストップしてしまってオンラインショップで商品が売れなくなったりもしました。また対面のレッスンからオンラインへ移行したときも、最初はとにかく大変でした。ヨガやフィットネスを教えている方たちは皆さん苦労されたと思いますが、オンラインレッスンを開くために必要な機材の入手はもちろん、テクニカルなことまで自分でやらねばならず、初めてのことだらけ。一つのことを調べるのに一日かかったりもし、何もかもが手探りでした。

私は、競争心をあおるような生活環境で育ったために、幼い頃から成功しなくては!という意識が常にありました。ミュージカルでもヨガでも、トップを目指さなくてはいけない、と思い込んでいたのですが、その思いが自分自身を縛りつけて、不幸にしていることに気づいていませんでした。自分らしさってなんだろう?と、内面に向き合い心と身体に意識を向け続けることで、だんだんと自分の求めている本質的なところも掴めてきて、自分を縛らずに自由に生きることが自分には合っていることに気づきました。それからは本当に、仕事も必要な学びも、心の底から楽しめるようになったと思います。

5.今後の展望をお聞かせください。

本物になりたい!という思いに突き動かされてずっとやってきました。何を言われてもぐらつかない、しっかりした基盤を持ちたい、と常々思っています。また、自分に合ったセルフケアのシステムを求めている人たちに、より広く適確にリーチできるようなプラットフォームを見つけていきたいです。これまでは生徒さんや知り合いのつてで自然に広がっていく感じだったのですが、それだけでなく、実践的に使える科学の知識と、個別対応できる指導スキルを身に付けたい、と考える指導者の方にこの素晴らしいシステムを伝えていきたい、と感じています。パンデミック以来、オンラインの業界が確立されたことも、アメリカに住む私にとっては大きなプラスでした。日本の指導者の方には特に、自分の枠を超えてクリエイティビティを養って欲しいです。生徒さんの身体と生き方改革のお手伝いができる本物の指導者になりたい!と強く願っている方たちのお手伝いをしていきたいですね。

6.アメリカにいて、やりたいことが見つからずに、もやもやしている日本人へのメッセー ジをお願いします。

ご自分の育った家庭環境を一度振り返ってみてください。「こうしてはいけない」「こうあるべき」といった規範のなかで、自分の在り方を否定されるのが現代社会の常であり、そんな風に縛られて育ったなら、立ち止まってしまうのは当たり前です。あなたは、「自分なんかどうせ何をやってもだめなんだ。」とどこかで決め込んでいませんか?アメリカは「あなたは素晴らしい」と肯定が先にきます。決してどちらかが良いというわけではないですが、バランスを取ることが重要だ、と思うんです。これはアメリカでも日本でも同じですが、子供が何かを決めたくても、親が先回りをして、あれもこれもだめ、と決めつけると、子供たちは失敗を恐れて何もできなくなっていきます。失敗はおろか、自分の道さえ自分で決められないのです。子育て真っ最中のみなさんは、子どもさんには自分がされてきたことと真逆のことをしてみたらいかがでしょうか?時と場合によりますが、何もかも先回りして子供のために決めてしまうのではなくて、子どもの意思を尊重し、たとえ失敗してもいいからそれを遠くから見守る。そんな子供との関わり方を試してみる価値があると思うんです。失敗も沢山経験して、それを糧にもっと自由に可能性を広げて欲しい。失敗しない強さではなくて、たくさん失敗を経験しながら気づきを経て自分の意思で物事を決められる、そんな強さを手に入れて欲しいと願っています。

また、どうしても前に進めない、という方はまず生活環境を変えていくことから始めましょう。少しずつで良いのです。始めは、散歩の道順を変える、といったシンプルなことから始めでみてください。やがては現地で習い事をしたり、新しいひとと出会える場所にどんどん出かけて行ってみてはいかがでしょう?今のこの時は二度と戻ってきません。失敗を決して恐れないで!世の中にはあなたを待ってくれている人たちがいることを忘れないでください。

ジャスパーきょうこさんのウェブサイト:www.kyokojasper.com

★Interviewerのあとがき

きょうこさんはとてもエネルギッシュ。と同時にお話ししているとなんだか癒される…そんなお人柄が魅力的な方でした。ヨガの道にシフトする以前からずっと変わらず続けておられるの

が実は通訳の仕事で、国連総会の同時通訳からはたまたあのビヨンセへのインタビュー通訳まで、ありとあらゆるジャンルで通訳をしてきたご経験があるとのこと。国際社会の流れや変わ

りゆく世界の今を知れて物知りになれるとも仰っていました。必要と思えばすぐに行動し、学びをどんどん深めてご自身のスキルに変換し続けておられ、その熱心さは今すぐ見習いたいと

感じるほどです。様々な刺激を常にチャージして「本物」を目指し前進されている姿にはリスペクトしかありません。楽しいインタビューの時間をありがとうございました。

取材・執筆:竹中はる花

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