私の生き方 in アメリカ

#19. 食を通して多くの人を幸せにしたいー宮木慧太 さん(D.C.)

2/14/2024 | 私の生き方 in アメリカ インタビュー

今回はSashimi DC創設者、代表の宮木慧太 さん(ワシントンDC在住)をご紹介いたします。

1. アメリカに来た経緯を教えてください。

日本では民間の金融機関で働いていました。ときに脆弱を見せる新興国の金融市場を政策側から強くするお手伝いができないかと思い、世界銀行グループや国際金融基金といった国際機関に職を得ようと考え、2012年に留学で渡米しました。大学院修了後、ワシントンDCの世界銀行グループで2020年まで働きました。

その後、2年ほどスイスの国連機関で働きました。しかしジュネーヴが肌に合わない、また大きな官僚組織で働くことに物足りなさを感じるようになりました。そこで、長く住んで知り合いも多いワシントンDCで起業することを決断し、アメリカに戻ってきました。

2. 現在のお仕事について教えてください。

魚屋です。2023年の秋から九州のお魚をチルドで輸入し、DCメトロエリアで販売しています。輸入元とのやり取り、通関業務、営業、販売など全て一人でやっています。上質のお魚を「Democratizeする」という目標をかかげ、美味しいお刺身をより身近に、気軽に楽しんで頂ける環境づくりに取り組んでいます。品質の高い魚を限られたレストランのみで食べられるのではなく、ご家庭で多くの皆さまに食べてもらえるようにビジネスを続けていきたいと思っています。

3. 現在の仕事をすることになったきっかけを教えてください。

米国の大学院留学中にヴェトナム語を学び、ハノイに語学留学をしました。当時、語学交流をしていた現地の学生が、後に九州の水産加工会社に就職し、輸出先を開拓する仕事をしていました。その会社は冷蔵で日持ちのする加工技術を持っており、漁港から家庭の食卓まで短時間で届けることが可能な日本より、むしろ米国市場で有用な技術ではないかと考え、この会社の魚を米国に輸入することにしました。

また、アメリカの食は他国に比べて見劣りする、国土が広大であるが故に冷蔵配送のインフラが整っていないなどの弱みがあるのですが、その部分を誰も埋めていないのであれば、自分がやってみようと思いました。人生はお金を稼ぐだけではつまらないので、大きなミッションを持ちながら生きている方が面白いと思っています。

4. 現在の仕事で楽しいことは何ですか。

一番嬉しいのはお客さんがリピートしてくれることです。一度、あるお客さんが金曜日に中トロを注文し、土曜日に再度注文して「どんな人がやっているか見たかった」と倉庫まで取りに来てくれ、また日曜日にも買ってくれたことがありました。美味しいと言って3日連続で買ってくれたことが嬉しかったです。

人とのつながりでビジネスが続いていることも嬉しく思います。輸入元も知り合いを通じてつがなり、同じ大学院から世銀グループに入りながら花椒の輸入ビジネスを始めた起業家から話を聞いたりもしました。またビジネスを始めた当初は自分の知り合いがメインの購入者でした。その後、口コミで広がっていったのに加え、SNSでKAZ Sushi BistroのKazさんや、食のインフルエンサー、David Hagedornさんが取り上げてくれ、さらに購入者の方がRedditに投稿してくれたことなどもあり、徐々に広がっていきました。人とのつながりには感謝しています。

またビジネスを通じ、何かポジティブな影響を与えることで、自分の収入につながれば嬉しいと考えています。

Kaz Sushi Bistroのホームページ: https://www.kazsushi.com/

Kazさんのインスタグラム:https://www.instagram.com/p/Cy16_ldsABM/?hl=en&img_index=1

David Hagedornさんのインスタグラム:https://www.instagram.com/p/Czd8oUzuobc/?img_index=1

Redditの投稿:https://www.reddit.com/r/washingtondc/comments/187mf21/sushi_fans_unite/

 

刺身の盛り合わせ

5. 現在の仕事で大変なことは何ですか。

米国での通関にかかる時間が読めないのが大変です。最初は数時間で終わるであろうと思っていたのですが、最長で40時間ほど空港に留め置かれたときはハラハラしました。

また、最上級の品質のお魚、特に本マグロなどは日本を代表する大間のマグロにも負けないものを輸入していますが、アメリカで売られている冷凍のキハダマグロや日本国内で買える鮮魚と比較すると、値段は高くなります。そのために試してさえいただけない場合もあります。一度食べれば品質の高さを実感して再度購入していただけるのですが、食べていただくまでが大変です。

6. 今後の目標を教えてください。

食を通してできるだけ多くの人を幸せにしたいと思っています。

米国は民主主義や人権、自由といった普遍的な価値観のリーダーです。しかし、不平等、高額の学費や医療費、一般に他国に見劣りする食といった不足もあります。品質の良い食べ物を供給して生活を豊かにし、米国に住む人々の自信を深めることで、民主主義をはじめとした普遍的な価値観を世界で後押しできないかと、微力ながら思っています。

また、食は文化の一部であり、お魚は日本の食生活に占める割合が高い食品です。このビジネスを通して、お子様の日本食の食育にも貢献したいと思っています。

7. アメリカにいて、新しい職種や起業に挑戦したいけど踏み出せずにモヤモヤしている日本人へのメッセージをお願いします。

日本のパスポートを持っていれば、帰って仕事は見つかります。起業で失敗しても野たれ死ぬことはありません。チャレンジして失敗しても生きてゆけます。一つ私の体験からお話しできることは、起業は体力を使うし、心労も大きいということです。それに耐えられる、できるだけ若いうちに挑戦するのが良いのではないかと思います

 

Sashimi DC by Keita Seafood ホームページ: https://sashimi-dc.square.site/

★Interviewerのあとがき

海外在住の日本人にとって、現地で恋しくなる食材の代表格が新鮮なお魚。全く違う分野からの起業と聞き、オープン間もない時期にインタビューの機会をいただきました。

お話を伺って強く感じたのは、一貫して人々を幸せにする大きなミッションを掲げ、その実現に向けて、日本の強味やご自身にできることは何かを常に考えていらっしゃることでした。目の前に既存の近道があったとしてもブレることなく、「高品質のお魚をより多くの人に届けたい」という信念を貫き、自分にしかできないビジネスの道を切り拓く姿が印象的でした。

また、起業から開店、ビジネスの流れを作る過程は新しいことばかりで、一つ一つの課題に向き合い、予期せぬ事態に対応する日々には心労も多いけれど、「ワシントンDCには知人が多く、周りの皆に助けてもらって今があります」と感謝の言葉を何度も口にするところにも、宮木さんのお人柄を感じられました。

 

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