私の生き方 in アメリカ

#4: 着物を通して、日本文化を継承する役割を担いたい ―瀬山由佳さん(D.C.)

11/28/2022 | 私の生き方 in アメリカ インタビュー

今回は、ワシントンDCで着付け教室を運営されている瀬山由佳さんにインタビューしました。

1. アメリカに来た経緯を教えてください。

2018年1月に、転職した夫に帯同する形でワシントンDCにやってきました。渡米して最初の半年は、英語もまったくできなかったので、本当に苦労しました。引っ越してきた当初は、常に家の修理の対応に追われていました。夫が仕事で家を留守にしている時に、自分だけで英語で対処しなくてはいけないことも多く、そのたびに コミュニケーションがうまく取れずに落ち込んでいました。知り合いもなかなかできず、あの時は本当に大変でしたね。

2. その大変な時期を経て、現在では、きもの着付け教室を運営されていらっしゃいます。ここまで来るのに、どのような道のりを歩まれたのでしょうか?

国際開発系の仕事に携わり、社会をよくするために働いている夫の影響で、社会のために自分はどんな貢献ができるのだろう、といつも考えていました。英語が得意ではない自分でも参加できるものはないか探している時に出会ったのが、Table For Two という非営利団体が行っている 食育プログラムのボランティアです。ボランティアから始め、そのあとアシスタントも経験しました。子供たちが相手だったせいか、自分の英語力に気後れすることもなく、とても楽しく活動に参加することができました。そんな時に、夫の同僚とお仲間数名に着物の着付けを教える機会がありました。その際、参加者の方に「着付けを習いたい人はたくさんいるから、ビジネスとして始めたらどう?」と言っていただいたことがきっかけで、教室をはじめました。

3. 着物の着付けは、アメリカに来る前に、日本で習っていたのでしょうか?

はい。母と叔母が和裁師のため、幼少のころから着物は大変身近な存在でした。そんな環境で育ったので、「着物の着付けについて、ちゃんと学びたい」という気持ちが自然と膨らみ、日本で働いていた時に、きものの着付け学校に通いはじめました。最初から着付け師になりたかったわけではないのですが、勉強するならしっかりやりたいという思いがあったので、数ある 中で一番幅広く学べるコースを選び、それがたまたま着付け師の養成コースだったんです。その学校は、結婚式場やホテル、美容室等と提携していて、着付け師の資格を取得した卒業生たちを現地に派遣していました。私が着付け師の資格を取ったあとは、平日は一般企業で働き、週末に着付けの仕事をしていました。

4. 着物の着付けは、どんなところが楽しいですか?逆に大変なことはありますか?

アメリカに住んでいるからこそ日本の伝統行事を大切にしたい、着物を自分で着られるようになりたいと思っている方達に、微力ながらも着物を着る機会を提供できる点が楽しくもあり、とても喜びを感じます。大変なことはあまり思い浮かびませんが、強いてあげるとすれば、ビジネスを立ち上げた当初は仕事をすべて一人でこなさなくてはいけないことにとまどいました。日本ではペアで仕事を行うことも多かったので。ただ、一人で仕事をこなすことにも比較的早く慣れることができました。これは、日本ですでに着付け師としての経験を積んでいたおかげです。さらに経験を積めば積むほど、どんな事柄にも臨機応変に対応できるようになり、そんな時に自分の成長を実感しています。

5. 今後の夢や目標はありますか?

夫の転勤先がどこになるかで、できることも変わってくると思うのですが、どこに行っても 着物に携わる活動は続けていきたいと思っています。現地の日本人向けの着付け教室だけではなく、日本文化に興味のある日本人以外の方達にも気軽に着物を試していただけるような仕組みを作っていきたいです。また着物を着る文化を継承していくことで、日本文化にも貢献していきたいと考えています。

6. アメリカで やりたいことが見つからず、もやもやしている日本人女性へのメッセージはありますか?

アメリカに永住予定の方、期間限定でお住まいの方、皆さん色々な状況があると思いますが、現地で働いたり、精力的に行動している人をみて、自分も何かやらなくては、と焦る必要は全くないと思います。周りがこうやっているから、こうしなくちゃいけない、という固定観念は捨てて、自分のしたいことをやればいいのではないでしょうか。

私がアメリカに来た当初、夫の仕事関係者や周囲の方に「由佳は何の仕事をしているの?」と聞かれることが多く、そのたびに、仕事をしていない自分、何もしていない自分に焦り、プレッシャーになっていました。何もしていない自分はダメな人間だ、と自分で勝手に落ち込み、もやもやする時もありました。そのもやもやはボランティアや着物の着付け教室を通して徐々に晴れていったのですが、その時の自分に声をかけることができるとしたら、「仕事がすべてではないよ」と伝えたいです。「仕事はしていないけれど、英語を頑張って勉強しているよ。」とか「アメリカ文化を楽しんでいる最中だよ。」と自信をもって、その時楽しんでいることを素直に相手に伝えればいいんだよ、と。楽しいと思えることを見つけて、そこに進んでいけばいい。すべてが自分の経験となっていくのだから、気負わずにやっていけばいいと、今は思います。

着物を通して、日本文化を継承する役割を担いたい ―瀬山由佳さん

瀬山きもの
ウェブサイト:https://seyama-kimono.localinfo.jp/
インスタグラム:seyamakimono

★Interviewerのあとがき

インタビューの間中、着物を通して日本文化を伝えていきたい、という瀬山さんの熱い思いが伝わってきました。瀬山さんのインスタグラムを拝見すると、着物を着た皆さんの素敵な笑顔が広がっていて、見ている私もほっこり幸せな気分になりました。渡米当初の自分に対して、「あなたが楽しんでいることを素直に楽しめばいいんだよ。焦らなくていいんだよ。」と言ってあげたい、とおっしゃっていたことがとても印象に残りました。一見回り道に見えるかもしれないことでも、長い目で見た時に実は近道だった、ということもよくあります。たとえ近道ではなかったとしても、試行錯誤しながら自分と向き合ったその日々は、自分にとってぴったりの働き方や生き方を見つけるための、大切な糧となるのではないでしょうか?
また、ご主人の仕事の関係上、これからのキャリアパスがなかなか立てづらい状況にありながらも、「その時にその場所でできることを探していこう」という、瀬山さんのポジティブな姿勢に、とても勇気をもらいました。

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