今回は、アメリカ滞在を経て現在はフランスのパリで、オンラインチアダンス教室YA Cheer Danceを運営している橋詰あずささんにお話を伺いました。
1. Please tell us how you came to the U.S.
初めてアメリカに来たのは高校1年生の時で、ボストンに交換留学生として1年間滞在しました。その後も海外に行きたいという思いが強く、カナダの大学へ進学しました。大学卒業後は日本へ戻りメーカーに就職。その時にチアダンスと出会い、少し遅いスタートではあったのですが、26歳から趣味としてアメリカンフットボールのチアを始めました。幼少期から続けていたバレエの経験が強みになったと感じています。
その後もチアの魅力に引き込まれ、次第にチアの最高峰のプロアメリカンフットボールリーグ、NFLを目指したいと思い始めました。日本でNFLのチアのパフォーマンスをビデオで見て、そのかっこよさに心を奪われ、オーディションを受けに行く決断したのが30歳の時です。
準備期間中には、インタビューで説得力のある話ができるように、NFLの試合を観戦するためにアメリカを訪れたり、NFLワシントン・レッドスキンズ(現在はワシントン・コマンダーズに改名)の元チアリーダーの方のクラスに、オンラインで参加しました。レッスンの内容はダンスだけでなく、インタビューでの受け答えの仕方など多岐に渡ります。NFLチアはダンススキルだけでなく、知性やファンの方々と積極的に交流できるコミュニケーション能力が望まれることもあり、「Whole Package(全てを兼ね備えた人)」が求められていることも学びました。
2016年の春、ワシントンDCでオーディションを受けることになりました。当時勤めていた会社は、私の「NFLのチアダンスチームに入りたい」という目標を理解し、休職を許可してくれました。オーディションは、まずは1ヶ月の準備レッスンから始まり、そのあと数週間にわたる査定へと進んでいきました。
無事にNFLワシントン・レッドスキンズに合格し、2016年7月から、毎年行われる試験を通過して、4年間チアリーダーとして活動しました。レッドスキンズのスタジアムは約9万人が入ることができ、日本での観客数とは桁違いで、試合に出ること自体がとても楽しかったです。また、エリアのファンの方々はレッドスキンズを愛してくださり、ジムやスーパーなどでも声をかけていただくことがありました。また試合以外でも学校訪問をさせていただき、チームが寄付した本を届け、その数冊を生徒たちに読んであげるイベントに参加したことも良い思い出です。アメリカでNFLチアリーダーは憧れの存在であり、子供達はキラキラした目で歓迎してくれます。自身のNFLチアリーダーになった道のりを伝えることで、国や言葉が違って険しい道でもやりたいことに挑戦する大切さを感じてもらえたことを嬉しく思っています。
2.現在のお仕事、あるいは今、情熱をもって取り組んでいることは何ですか?
現在、オンラインでチアダンス教室YA Cheer Danceを運営しています。私と同時期にNFLダラス・カウボーイズのチアリーダーをされていた、友人で現在サンディエゴ在住の河田侑子さんと一緒に立ち上げました。オンラインクラスを始める前はワシントンDC日本語補習校にて対面でチアを3年ほど教えていました。コロナ渦をきっかけに、親御さんからのリクエストもあり、侑子先生と一緒にオンラインでのレッスンをスタートしました。現在は、アメリカ、ヨーロッパ、日本から、80名近くの生徒さんがクラスに参加してくれています。対面で教えていた頃からずっとレッスンを受けてくれている生徒や、日本に本帰国した後もオンラインで受講してくれている生徒がいることが、本当に嬉しいです。
情熱を持って取り組んでいるのは、まずはダンスを心の底から楽しいと思ってもらえること。そして生徒さんを比べるのではなく1人1人の成長にフォーカスをし、言葉をかけてあげることで自己肯定感を高めること。最後に、レッスンでは失敗をたくさんする場所、その失敗から新たな発見をしてそこからまた成功していくことが大切であると伝えることで、失敗を恐れないマインドセットを生徒達に持ってもらえたらと熱く思いながらレッスンをしています。
私はバレエを習っていた時に、人と比べたり、体型を気にしたりした経験もありました。だからこそ、生徒達には周りではなく自らにフォーカスして伸び伸びと成長していってほしいと願っています。オンラインダンス教室だからこそ、この自らにフォーカスがしやすい環境であるとも自負しています。
3.現在のお仕事で大変なこと、その反対に楽しいことを教えてください。
長年レッスンを続けてくれている生徒たちの成長を見守ることが、何より楽しいです。先日、ワシントンDCで開催された全米桜祭りのパレードとJapan Street Festivalのステージにて有志の生徒たちがパフォーマンスをさせていただいたのですが、小学校低学年から教えている生徒たちが中高生となり立派にパフォーマンスをしている姿を見てその成長に感動しました。また現在は、主に4歳から小学校低学年の生徒のレッスンを担当していますが、元気いっぱいな子供達の様子に、私の方が逆にエネルギーをもらっています。
オンライン教室は世界中どこにいても教えることができ、また、子育てと両立できることも強みだと思います。私は夫の仕事の都合で海外への引越しが多く、これまでアメリカ国内やタイ、そして現在はフランスからレッスンを行っています。侑子先生もアメリカ国内での引越しが多いのですが、オンラインという形だからこそ、二人で共同運営を続けられています。オンラインチアダンス教室を立ち上げてから、お互い2回出産を経験し、複数回の引越しを経験してきました。外へ働きに行くことが難しい環境にいるため、オンラインでクラスをさせてもらうことで、社会との接点が保つことができ、嬉しく感じています。また、教室に関わる仲間も増え、現在では、現役のNBAダンサーやNFLのチアの方々にもレッスンを担当してもらっています。
大変だと感じたことはあまりありませんでしたが、教室を運営していく中で、サービスの改善は常に心掛けてきました。例えば、音声トラブルへの対処策を立てたり、WEBカメラを導入してモニターを使って大きく画面に写すことで、生徒一人一人の踊りをしっかり確認し、的確にアドバイスできるようにするなど、少しずつ、より良いレッスンができるように、工夫を重ねています。また、ウェブサイトの改善にも取り組み、「こんなサービスがあったらもっと良くなるのでは」と思うことを積極的に取り入れています。具体的には、レッスン後に録画した動画を視聴できるようにして生徒のみなさんがいつでも練習できる環境を整えたり、毎年全米桜祭りに参加しチアダンスを習うだけではなく、実際にパフォーマンスできる場も提供したりしています。
4.アメリカに来て、自分が成長したと思えるような体験談はありますか?
大手企業の安定した生活からチアへの挑戦に不安もありましたが、「今しかない」とNFLチアを目指し、オーディションに挑戦すると決断したことが、自分自身の成長に繋がったと思います。また、チアリーダーのチームに入ってからも、日本とは異なる環境の中で成長し続けることができたと感じています。30~40人ほどのアメリカ人女性の中で、自分の意見がうまく言えず葛藤する時もありましたが、そうした経験を通じて、精神面でも成長できたと思います。
パフォーマンスする時の意識も、NFLのチアリーダーになってから変わりました。4年目にはセンターで踊らせてもらう機会があり、以前の自分であれば不安を感じていたかもしれませんが、「自分がやらなきゃ誰がやるんだ」、「自分が引っ張っていかなければ」という良い意味での責任感と割り切りが生まれ、プレッシャーの中でここぞというときに決める感覚を掴むことができました。
5.今後の夢や目標を教えてください。
オンラインチアダンス教室をはじめて5年。親御さんからは色々なお声をいただいていて、「とても人見知りだった娘がこころを許して踊れる場所」とおっしゃっていただいたり、レッスンに参加いただいているスペシャルニーズのお子様の親御さんからは「対面クラスでは、周りの方に迷惑をかけていないかと心配になることも多いけれど、オンラインなら自宅から受講でき、周りを気にせず、ダンスを学ぶことができるのが助かります。」とのお声もいただいております。今後は、様々なニーズを持つ生徒さんに対応できる様にもしていきたいです。そして海外に住む生徒達が、日本語でのレッスンを通して日本語力を伸ばしたり、日本文化に興味を持ち続けてくれたら嬉しいです。
6.これから何かを始めようと思っている在米邦人の方にメッセージをお願いします.
アメリカに住んでいらっしゃるということは、すでに何かしらの決断をして渡米されていらっしゃると思います。だからこそ、何かを始めようと思っているならば、「今」が始め時ではないでしょうか?生徒にもよく伝えていることですが、失敗することを恐れないでほしいです。トライアンドエラーを重ねながら、やってみて上手くいかなければ、また違う方法を試していけば良いのではないかと思います。
侑子さんとあずささんのオンラインチアダンス教室:YA Cheer Danceのホームページ
https://en.yacheerdance.com/
★ Interviewer's note
あずささんとは、オーディションを受けにDCへ来られた際にお会いしたことがあり、その時のことは今でも鮮明に覚えています。凛としていて、自分の道を貫く強さがある女性という印象を受けました。10年ほどを経て、インタビューをさせていただいたのですが、生徒たちに「人と比べることなく、自分自身の成長に目を向けて欲しい」と願い、常に前向きなメッセージを送っていらっしゃり、とても感激しました。楽しさと学びがたくさん詰まっているオンライン教室に参加している生徒さんにとって、あずささんはロールモデルになっているのだろうなと感じました。ダンスを通じて自己肯定感を高め、日本語にも触れることができ、まさにダブルでお得なものだと思います。これからの更なるご活躍を心より応援しています。
取材・執筆 石澤宏美