今回は、ニューヨーク州(NY)でメイクアップアーティストとして活躍し、現在ハワイ州(HI)の大学で陶芸を教えている舟橋潤さんにお話を伺いました。
1. Please tell us about your journey coming to the United States.
クリエイティブな世界で働きたくて、高校で美容免許を取得し、1996年にNYへ渡りました。知り合いも仕事もない中、本屋でファッション誌を読み漁り、一番好きだったメイクアップアーティスト、パット・マックグラス(Pat McGrath)に手紙を送りました。しばらくして彼女のエージェントから連絡があり、英語が話せない不安の中で面談し、そこで「仕事は相性」と言われ、アシスタントとして採用されました。メイク道具運びや整理から始まり、衛生管理の丁寧さが評価され、次第にメイクを任されるようになりました。
2. 現在のお仕事、あるいは今、情熱をもって取り組んでいることは何ですか?
ハワイで「CLAYLABO」を運営し、これまで誰も成功しなかった100%ハワイ産の土と釉薬による陶磁器の開発に取り組んでいます。釉薬の実験で新しい色を見つけるのが何よりの楽しみです。また、シャミナード大学とハワイ大学で陶芸を教えており、造形に情熱を注いでいます。粘土に触れると、まるで全身の細胞が「これが好きだ」と声を上げているような、体から悦びが湧き上がってくるのを感じます。
3. 陶芸に携わることになったきっかけを教えてください。
ファッションショーの撮影をきっかけにファッションデザイナーと出会い、一緒にものづくりをすることになりました。もともと造形が好きだったこともあり、ショーのためにブレスレットなどの彫金ジュエリーを制作しました。それがきっかけで、立体で何かを作ることが本当に好きなんだと気づきました。ある時、彫金で作品を作っていたところ、友人から「粘土の方が表現しやすいかもしれないよ」とアドバイスをもらい、試してみたらすっかり夢中になってしまいました。それから、ジュエリーのアイデア提案や制作も積極的に行うようになり、次第に手がける作品のスケールも大きくなっていき、やがて素材はセラミック(陶磁器)へと移行しました。
撮影のない日は、近所のセラミックスタジオで多くの時間を過ごし、12年間メイクと造形の二つの仕事を両立してきました。メイクの仕事では、撮影現場が好きで、世界中を飛び回る日々を過ごしていましたが、50代後半から70代まで続けるのは難しいと、40代後半になって感じ始めました。その頃から、造形により重きを置くようになりました。
メイベリンのキャンペーンを任され業界のトップに立つ機会も得て、次のステップは自身のメイクアップラインのプロデュースという段階までたどり着きました。ただ、それが本当に自分のやりたいことなのか疑問を持つようになり、メイクの世界では、自分なりにやりきった、という手応えもあったので、これからは心から好きなものに向き合おうと決め、セラミックに専念することにしました。家族には反対されましたが、自分の人生ですから、自分はこうしたいという思いを大切にしました。
4.陶芸の楽しいところ、大変なところは?
釉薬の組み合わせで生まれる色には、毎回ワクワクします。窯を開けた瞬間、想像以上の色が現れたときが一番楽しく、メイクで色を重ねて、写真に仕上がったときに感じた色の感動と重なります。思い通りの色が出ると、本当に嬉しくなります。
大学で教える中で一番難しいのは、やる気を見せない学生にどうやってモチベーションを持たせるかということです。目標が見えなかったり、自分から行動できない学生に対しても、できる限り同じ目線に立ち、一人ひとりの個性や可能性を丁寧に見るようにしています。
例えば、物事にあまり関心を示さない生徒には、まずはその子の好きなことや得意なことを見つけることから始めます。ゲームやアニメなど、その子が興味を持てるものをうまく課題に取り入れながら、好奇心を大切にして、少しずつ前向きに取り組めるよう工夫しています。自分のアイデアが求められる環境を作ると、自然と自発的に動く力が養われます。
また、欠席が続いている学生には、「心配してたよ」と親身に声をかけます。自分のことを気にかけてくれていると実感することで、学生は心を開いて、安心して自分を出せるようになり、信頼関係を築くことができます。消極的だった学生が卒業する時には、社会活動のリーダーになっていたり、行動的になった例を見てきました。単に技術や知識を教えているだけでなく、学生が内面から成長できるような関わり方を心がけています。
5. アメリカ生活で苦労したこと、日本に帰りたくなった体験などを教えてください。
パットのアシスタントとして2年間毎日働いていましたが、ほとんど給料がもらえず、とうとう手元に残ったお金はたったの$200になってしまいました。来月の家賃すら払えない状況で、「このままではまずい」と強く感じ、自分で道を切り開くしかない、独立するしかないと思い決心しました。すでに、パットのアシスタントとして名が知れ渡り、American VogueやHarper’s BAZAARの仕事もしていたので、ポートフォリオを持ってエージェントを探さなくても、仕事を得ることができました。
貯金が底をついても、日本に帰りたいと思ったことは一度もありませんでした。日本は働きにくい国だと思うし、ずっとセラミックをやっているわけでもないのに、大学の教授になれたのは、アメリカだからです。アメリカにはチャンスがどこにでも転がっていると思います。
6.アメリカにきて、自分が成長したとおもえるようなきっかけ・体験談ありますか?
NYで過ごしていた日々は、毎日が自分を成長させてくれるきっかけの連続だったと感じています。例えば、街を行き交う人々のファッションセンスの良さには、いつも刺激を受けましたし、パフォーマンスアーティストのエネルギーや自由な表現にも影響を受けました。
また、日本とは異なる価値観にも多くのことを学びました。日本では自分がどう見られるかを意識し、周囲との調和や協調性を大切にする文化がありますが、NYでは上昇志向がとても強く、皆が自分の目標に向かって突き進んでいる印象でした。たとえ失敗しても、すぐに気持ちを切り替え進んでいく。その姿勢に、大きな刺激を受けました。
ハワイのニュースチャンネルに出演。お仕事やボランティア活動について話をした。
7.今後の夢や目標は?今後の活動をどうやって進めていきたいですか?
ハワイの土を使った研究を深めていくことが、今の一番の目標です。将来的には大学での地位を高め、社会活動にも積極的に関わっていきたいと考えています。
現在は、ハワイのアーティストの集まり「fishcake」で展示やワークショップの企画に携わり、アップサイクルによって不用品をファッションアイテムとして生まれ変わらせる取り組みも行っています。身近なリサイクル活動を通して、美しい環境を守ることにも力を入れています。
8.アメリカでこれから何かを始めようと思っている日本人の方にメッセージをお願いします。
人に意見を聞くと、多くの場合、お金を稼げる仕事かどうかという視点が強くなりがちです。それが本当に自分のやりたいことと一致していれば問題ありませんが、そうでない場合、知らず知らずのうちに自分の道がそれてしまうこともあります。だからこそ、自分が心から好きだと思えるものは何かを見つけることが大切だと思います。人生は、自分の「好き」を軸にしないと、どこか満たされないものになってしまう気がしています。
私の場合、8歳のときに両親とハワイを訪れ、「なんて青が濃くて強い世界なんだ。ここに住みたい」と強く思ったことを、今でも鮮明に覚えています。子どもの頃から色に惹かれることが多く、高校時代にはファッションに興味を持ち、その流れでファッションのメッカであるNYへと向かいました。でも、それでもハワイに住みたいという想いは、ずっと変わりませんでした。そして、コロナ禍で立ち止まった中、今がその時と感じて移住を決意しました。最初からやりたいことを実現するのは難しいので、まずは目指す方向に近づくために、できる事から始めました。そして諦めずに、最終的に叶えたい目標を持ち続けていたことで、夢を形にできると実感しています.
舟橋潤さんのホームページ:https://claylabo.com/
★ Interviewer's note
自分が心から「これが本当に好きだ」「楽しい」と思えることを見つけ、周囲の意見に流されることなく、その気持ちを大切にすることが何よりも重要だと感じました。舟橋さんは、メイクアップアーティストとして生計を立てながら、自分の好きなことをメイクの仕事に取り入れ、十分な準備期間を経てきたからこそ、タイミングが整った時に自分の本当に好きなことを仕事にできたのだと思います。
舟橋さんの「アメリカにはチャンスがどこにでも転がっている」という言葉が印象に残っています。ただ、本当のチャンスは、努力する姿を見てくれる人がいてこそ生まれるものだと思います。だからこそ、目の前のことに一生懸命取り組むことが、結果として成果や報酬につながっていくのではないでしょうか。
また、学生への指導について、「できることは全力でやりたい」と語っておられました。学生の変化や成長を間近で見守る中で、やってよかったと心から思える瞬間があり、それが喜びとなり、次への力にもなっているのだと感じました。自分らしいやり方で誰かのために尽くすことによって、人とのつながりの中で幸せや充実感が広がっていく、その姿に強く共感しました。
これから舟橋さんがどんな色のセラミックを生み出し、どのような新たな挑戦に向かわれるのか、今後の活躍がとても楽しみです。
取材・執筆:ビュフター一枝
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