今回ご紹介するのは、日米を行き来して古民家の改装をしながら、スミソニアン美術館で働くネルソンあゆみさんです。
1. Please tell us about your journey coming to the United States.
日本の音楽系短大を卒業後、公共空間のアートをデザインする会社でサウンドデザイナーとして働いていました。その頃バブル崩壊もあって日本のアート業界の将来性に不安を感じ、以前から英語を勉強したいと思っていたことから、カナダでのワーキングホリデーを決めました。カナダではアートギャラリーで働いていました。その後、地元の島根県に帰って10年ほど英語の先生をした後、2008年に結婚を機に渡米しました。
2. アメリカに来られてどのような仕事をされていましたか?
アメリカでの初めての仕事は日系企業の原子力関連の子会社で、2009年頃から事務をしていました。アメリカにある原子力発電所は40年以上前に建てられたのもので、多くの日系企業が建て替えビジネスをターゲットにアメリカに進出していました。ニュークリア・ルネサンスと言うほど、原子力関連のビジネスが盛り上がっている時期でした。しかし、2011年の東日本大震災によって引き起こされた福島の原子力発電所の事故を受け、日系の電力会社は次々とアメリカから撤退していきました。結局は働いていた会社も縮小し、他州に移転するのを機に辞めてしまったのですが、その後も米国の原子力関連の会社に転職して働いていました。
また今はお休みしていますが、ワシントンDCの茶道裏千家でアシスタント講師をしています。元々母親がお茶をしており、お菓子に惹かれて小学1年生の頃からお茶を習っていました。渡米当初は生徒から始めたのですが、先生方はお歳を召されている方が多く、日本人で長く続けられる人を探していたため、アシスタント講師をすることになりました。
実はこの冬にも転職し、ワシントンDCにあるスミソニアン協会国立アジア美術館で、日本美術部門の事務職の仕事を始めました。お茶の繋がりで日本美術の学芸員の方と知り合い、渡米後に離れてしまったアートの仕事に戻りたいという想いを伝えていたところ、空きが出るのを教えてもらって応募したことがきっかけです。15年働いた原子力業界から真逆のような仕事で、夢を持ち続けることは大切だと実感しています。
3. 今情熱をもって取り組まれていることはありますか?
日本にある古民家のリノベーションをしています。コロナ禍の時期に母の介護のため、リモートで仕事を続けながら島根とアメリカを行き来し始めました。その頃Youtubeで日本の古民家がかなり安く買えることを知り、興味を持ちました。不動産情報を提供するアプリをダウンロードして実際に見てみると、100坪くらいの土地が100万円程で買えることが分かりました。タイミング良く地元の島根県内で、出雲大社の海の近くにある築140年ほどの古民家の物件を見つけ、実際にこの古民家を見て恋に落ちてしまい、購入することを決めました。この古民家は、100歳近いおじいさんが一人では住めなくなって売りに出されていたものを建築家の方が購入したのですが、コロナ禍で建築事業がうまくいかず泣く泣く手放されたものでした。こういった背景もあり、この建築家とタッグを組む形で古民家をリノベーションし、将来は地域活性化に貢献できるような場所にすることにしました。この建築家の方も自分の代表作になるような作品にしたいという強い気持ちを持ってくださっています。
4. 古民家のリノベーションで楽しいことは何ですか?
居心地の良さを確保しながら古民家の持つ古い良さを最大限に生かせるように考えて、建築家の方と話しながらリノベーションを進めていくことです。日本の古い建築物には「梁’という太い木が使われているのですが、今では手に入りにくいものです。この貴重な材料を残しつつ快適さを追求していくことがポイントです。昔は出雲大社の遷宮には島根県内のみから材木などの建築材料を集めることが出来ていました。しかし、現在は材料のほとんどが県外か海外からの調達となっていると聞きました。昔の日本の家は100年以上の寿命があると考えられていて、家の裏山に、次の世代の建て替えに使えるよう木を植えるといったエコサイクルがありました。その土地の気候に合わせて育った木だからこそ、その土地の家づくりに適した材料になるのです。リノベーションをしていると、このように建築に関する新たな発見や学びがあり、それも楽しいところですね。今回のリノベーションに必要な材料は島根県のものを使用するようにしており、地元の材木屋さんや家具作家さんとも話をしています。
*梁: 柱の上に水平に渡して、建物の上からの荷重を支える部材のこと。
5. 逆に大変なことはありますか?
建築家の方は日本にいるので、私がアメリカにいる時は時差の中でスケジュールを合わせて話したり、日本で実際に会って話さないと決められないこともあります。また、このリノベーションにはアメリカ人の夫も関わっているので、夫と建築家の言葉や文化の違いを仲介するのは時間もかかりますし、言い方を考えながら上手く伝えるのは難しいです。でも、日本人の建築家の方からは「ただ否定的な意見が出るのではなく、会話で意見交換という形を学べるので新しい発見です」と言っていただいています。他にはコロナ禍の影響もあって資材の値段が高くなってしまっているのには頭を悩ませています。
6. アメリカで苦労したと感じることはありますか?
アメリカに来た当初は「悔しさ」から抜け出すための苦しさがありました。働いている中で、日本人だから甘くみられたり正当に評価されていないと感じたこともあり、アメリカ人の同僚より仕事で評価されるために行動や実際の成果で見せる努力をしました。夫にもアメリカ人の上司にどのようにアピールしたら良いか相談しました。アメリカで生活する上では、思いを言葉にすることや曖昧にしない訓練が必要だと思いました。
7. アメリカにいて、やりたいことが見つからずにもやもやしている日本人へのメッセージをお願いします。
特に日本の女性は家庭を大切にしようという気持ちが大きいように感じます。確かに重要なのですが、良い意味でもう少し自己中心的になっても良いと思います。家庭を優先しすぎると、やりたいことを見つける上でハードルが高く感じてしまうことも多いと思います。せっかくアメリカにいるので、やりたかったことや好きだったことに焦点を合わせて、山盛りの問題は自分の夢実現の為にどう対処するのが良いか、と考えていけば気持ちが少し楽になって取り組めるのではないでしょうか。
★ Interviewer's note
古民家リノベーションのお話は聞いていてとても興味深かったです。自分が知らなかったことを知れることは貴重かつ有難く思います。もともとアートのバックグラウンドがあるあゆみさんだからこそ、古民家リノベーションは難しいこともありつつも本当に楽しく取り組まれているんだなと思いました。私の育った家は古かったせいか、日本にいた時も古民家カフェに行くのが好きでした。どこか懐かしさを感じ、とても居心地良く感じていたことを思い出しました。アメリカにいるからこそ時々ふと思うのですが、日本のように古くから文化や伝統、歴史があるのはとても貴重なことだと思います。現代化にともなって変化があるのは当然のことですが、出来るだけ古き良きものを残されようとしている活動は素晴らしく思います。いつかリノベーションが完成したら、私もあゆみさんの古民家を訪れてみたいと思いました。