今回は、ワシントンD.C.でロビイング・アドボカシー活動に従事している、小暮美怜さんにお話を伺いました。
1. Please tell us how you came to the U.S.
ダイキン工業がワシントンD.C.に新しい事務所を立ち上げたことを機に、2017年に出向者という立場で赴任してきました。
2.現在のお仕事を通して、情熱をもって取り組んでいることは何ですか?
日本では馴染みのない、アドボカシー・ロビー活動というお仕事をしています。ダイキン工業が得意としていることは環境に優しい省エネのエアコンづくりなのですが、インセンティブ制度を作ったり、規制を厳しくしたり等、政策誘導をする働きかけが私の主な仕事です。環境に優しい製品が米国でもっと普及するような規制づくりを全力で推し進めており、連邦議会政府、州の議会政府、環境NGO、電力会社、業界団体など様々な機関と連携しながら、社会と業界にとってより良いルールをつくることに日々取り組んでいます。
3.なぜその仕事をすることになったのですか?
環境への取り組みにずっと興味がありました。大学院生の時に就職活動をしましたが、環境を良くしていくという心持ちで、社会貢献ができそうで、グローバルに事業展開をしており、成長している会社を探していました。ダイキン工業にご縁あって就職したのですが、最初からアドボカシー・ロビー活動をしようと思っていたわけではありません。紆余曲折あってたどり着いたのが今のお仕事です。ただ、過去の記憶を振り返ると、早稲田大学で学んだ国際関係学、政治学、経済学の 3つの勉強がとても面白かった。自分の中で政治と経済の狭間で何かをやりたいという思いが潜在的にあったと思います。あれから15年たった今、大学で勉強していたような領域に身を置いていると思うと大変感慨深いです。
縁とタイミングと、そして元々持っていた興味関心分野が合致して今ここに繋がっていると感じます。私は東日本大震災が起きた時スウェーデンにいたのですが、このまま居ていいのか迷い悩んでいました。日本を元気にしたいという想いがあり、その為には日本に帰った方がいいのではないかと。ちょうどその時ボストンキャリアフォーラムという海外留学をしている日本人学生向けの就活イベントがあったのですが、日本で就職をする方向で日本企業を中心に面接しました。数ある企業の中、ダイキン工業だけは人事の決定権をもつ役員を連れてきており、そこで即私を迎え入れてくれました。思い切りのよさやフットワークの軽さに惹かれたんです。他の日本の企業とは違う、と直感で感じ就職を決めました。2012年にダイキン工業に入社し、大阪の工場で2年、本社に3年勤め、2017年にワシントンD.C.勤務となり今に至ります。
4.その活動の大変な点、楽しい点を教えてください.
アメリカでの活動は本当に大変です。 まず、連邦政府の政権が変わると方針がガラッとかわってしまうので、アプローチの方法をその都度変えていかなければならないという難しさがあります。さらに、州の権限が強く、各州によってルールが全く違う。連邦政府のルールを変えれば良いという話でなく、州法や州規制も変えなければならないという二重のややこしさがある事が日本と全く違います。
楽しいことは、とてもやりがいがあることですね。米国はエアコンを発明した空調発祥の地であり米企業はとても強いのですが、米産エアコンは日本と比べて時代遅れで環境に優しくないのが主流。それをこれから変えていけるという伸び代があり、そのポテンシャルが高い米国は大事な市場で私たちのフロンティアという感じです。現在、ダイキン工業は米国で業界2位のところまできており、ここで市場を制するというのは我々にとって意義のある目標で本気でコミットしています。やりがいがあった一例として、私が赴任してから行っている州の建築基準法を一つひとつ変えていく、という取り組みがあります。現在、到達度95パーセントのところまできていて、もう少しで完成。来年迄にはほぼ全ての州で建築基準法の変更が確定します。ワシントンD.C.に赴任してから7年が経ちますが、スタート地点からの想いが実り、一つのマイルストーンが達成出来ることがとても嬉しいです。
5.アメリカで苦労したことや日本に帰りたくなったことはありますか?
特に無いです。初めて海外に住んだのがスウェーデンだったのですが、スウェーデンの厳しい気候と言葉の壁にとても苦労しました。それに比べたら米国はとても暮らしやすいです。ワシントン D.C.は日本に近い気候ですし、人もフレンドリー。何より、ワシントンD.C.には様々な国の方がいるので疎外感を感じることなく楽しく生活しています。また、主人がスウェーデン人なのですが、彼にとっては日本と比べて米国の方が文化的に近い。子ども達もここで生まれ育っており、米国社会に完全に馴染んでいます。ダイキン工業の出向者という立場に守られている事も一因かもしれません。
6.自分が成長したとおもえるようなきっかけ・体験談をお聞かせください。
自分の内面的成長でいうと、あまり物怖じすることが無くなりました。とても図太くなったと思います。日本語が第一言語ということもあり、初めの頃は英語でアメリカ人と対等にやり合うことに気後れしていましたが、経験を積んでいく中で下手な英語でもいいと開き直ることができました。気負うことなくいろいろな人と接することが出来るようになったんです。また、管理職になったことで自分のリーダーシップのあり方を見つめるようになったこともそうです。もっと自分の意志を出していこう、もっと意見を出していこうと決め、自分のポジションを確立した上で話を進めていく事が出来るようになりました。まだまだこれからですが、少しはリーダーシップ力がついてきたかなと自 負しています。米国でのとても嬉しい自己成長です。
7.今後の夢や目標は?
米国が大好きで、当面は米国で頑張りたいと考えています。従事しているアドボカシー・ロビー活動は、会社にとっても社会にとっても重要な仕事であるとやりがいを感じているのですが、将来的に経営者に近いところを目指そうという気持ちが最近になって芽生えてきました。その為にはこれまでの経験や学びと並行してさらに広範囲な経験が必要だと感じています。実際に数字に責任 を負ってビジネスを運営する事業側の経験も積んでいきたい。一段と幅広い視野と高い視座を持てるように自己研鑽したいと思っています。
8.アメリカに来て、仕事探しや何か活動を始めようと思っている方へメッセージをお願いします。
とりあえず目の前になるチャンスを掴んでいくといいと思います。私は今まで直感で生きていて、迷ったら面白そうな方を選んできました。自分で決めたことは多少辛くても我慢ができるということを自身の体験から実感しています。こっちに行った方が人生が充実しそうという感覚を大切に、興味が引かれる方の道を選んでいくことが日々の生活や人生を豊かにすると信じてます。まずは出来ることから始めてみて、やっているうちに面白そうなことがきっと見つかるのかなと。そして、その過程で出会うご縁を大切にしながら、チャンスが舞い込んできたらキャッチするフットワークの軽さがあったらきっと上手くいくんじゃないでしょうか。自分が向いてると思うことややってみたいと思うことは、道しるべになります。自身の適正や出来る事の領域はとても広いことに気づかされ、最初はよく分からなくてもいざやってみると面白い!ということがただあるので、それを見い出して前向きに取り組んでみるといいと思います
★ Interviewer's note
私たちの生活に欠かせないエアコン。現在、世界トップの空調機器メーカーへの成長を遂げたダイキン工業で、第一線で働く美怜さんにお話を伺えたことは大変意義深いものでした。地球温暖化抑制という壮大な課題に立ち向かいながら大国アメリカの規制まで変えていく。会社のパイオニア精神はもとより、穏やかながらも使命に燃えた美怜さんの姿に、一日本人として大変誇らしく感じました。ロビイング・アドボカシー活動という耳慣れないお仕事でしたが、社会に提言し環境を良くするという美怜さんの取り組みは私たちの生活に直に繋がっています。環境にとって優しいことはどちらの方か、もっと出来る事はないかと日常生活を見直す機会となりました。また、直感で決めることがほとんど、と何度もおっしゃってたのが印象的でした。自分の向上心や好奇心に忠実に従いながらも、社会をより良くしていきたいという強い心意気が伝わってくるインタビューでした。
プライベートでは三人のお子さんのお母さん。仕事と家庭を割り切って分業体制をとっていらっしゃるそうで、美怜さんがお仕事、旦那さんが育児や家事を担っている専業主夫。パートナーに全てを任せられる懐の深さ、そして、美怜さんの社会責任を支える旦那さんの助力が合ってこそ、こんなにも輝いてらっしゃるんだなと感じられずにはいられなかったです。
美怜さんのさらなるご活躍を期待しております。
取材・執筆:ミーヘン香織