私の生き方 in アメリカ

#20. 一人ひとりの患者さんに全力で向き合い、一人でも多くの人に鍼を受けてよかったと感じてもらいたいー圓岡悦子(MD)

3/20/2024 | 私の生き方 in アメリカ インタビュー

今回はメリーランド州の鍼灸師、圓岡(まるおか)悦子さんをご紹介します。

1. アメリカに来た経緯を教えてください。

子どもの頃から外国の文化に興味があり、洋楽を聞いたり、英語を勉強したりするのが好きだったんです。大人になって看護師として病院で働いていた時に、日本赤十字社を通してスリランカで国際援助の活動をする機会があり、やりがいを感じました。英語で看護や保健の勉強をして、世界で活動をしていきたいという思いがあり、留学のためにアメリカに来ました。

2. 現在のお仕事、そこに至る経緯を教えていただけますか?

長い間看護師をしていましたが方向転換をして、鍼灸師の資格を取得後、昨年2月にClear Spring Acupunctureという鍼のクリニックを開業しました。現在はそのクリニックを全て一人で切り盛りしています。

アメリカでの鍼灸師の資格の取得方法は州によって違いがありますが、私はメリーランド州の大学院で勉強しました。資格取得後は、他の鍼灸師と共に働くことや、雇っていただいて仕事をすることも考えましたが、実習中から自分が鍼灸師として社会に出たら、一回の診療時間は全て一人の患者さんのために使いたいという希望があったので、自分の理想を叶えるためにクリニックを立ち上げることにしました。

3. 現在の仕事をすることになったきっかけを教えてください。

両親が東洋医学に興味を持っていたことが根底にあると思います。小さい頃から両親がお灸をするのを見たり、病気になると父が漢方薬局に連れて行ってくれたりしました。看護師時代に今もみてもらっている鍼灸師さんに出会ったことも大きかったです。その方の鍼治療が、悩みがあった時に私の精神的な支えとなりました。そして、自分でもその道に進んでみたいという気持ちが芽生えました。でも、その時はすでに50代になっていたので、方向転換することに対して怖さがあり、迷っていたんです。ある時、鍼クリニックの待合室で雑誌を読んでいたら、「鍼治療の究極的な目的は、その人その人の生きるべき目的にだんだん心と体がそぐっていくようお手伝いすること」と書いてあって、その記事にとても感動しました。自分でも鍼治療を受けることによって自分のやりたいことがはっきりしてきたと気づいていたので、その記事は衝撃的で、鍼灸師の道に進むことを決意しました。

4. その仕事の何が楽しいですか? そして、大変なことはありますか?

この仕事を通して、患者さんの健康増進のお手伝いをさせていただいていますが、ある時点で患者さんが「良い変化」というのに気づいてくださる瞬間が一番嬉しいです。いろんな面での変化があります。例えば、よく眠れるようになった、痛みが軽くなった、気持ちが晴れてきた、様々です。それらは、私が直接何かをしているというわけではなく、鍼治療が症状改善のお手伝いすることで、その人自身の自然治癒力が高まっていくのだと思っています。そのことを本人が感じられる瞬間に接することができるのが仕事の一番の喜びです。この仕事をしているのが毎日楽しいです。

その一方で、ビジネスを一から立ち上げることは経験がなかったのでとても難しかったです。法的なことを設定したり、借りる場所を探し必要なものを揃えたり、一つ一つが学びでした。今でもチャレンジの連続です。

 

 

施術室

5. アメリカ生活で苦労したことがあれば、教えてください

アメリカに来たばかりの頃、文化に慣れることにはとても時間がかかりました。やはり言葉が難しかったです。ここで育っていないので言葉に独特のアクセントがあるし、思ったことを思い通りに表現できないことも多かったです。日本にいた時は活発な方だったんですが、アメリカに来てから大人しくなっていました。8年ぐらい経った時にやっと自分らしくなってきたかな、と思えるようになりました。その時は、小中高の子どもたちを助けるスクールナースの仕事をしていたんですが、子どもたちが安全に安心して学校生活を送れるように私がやらなければいけないと責任を持って取り組むことで、自分の悩みはだんだん薄れていったんだと思います。全然違う文化から新しい文化に入り、その中で自分らしく生きていくというのは簡単なものではありませんでした。

6.アメリカにきて、自分が成長したとおもえるようなきっかけ・ 体験談はありますか?

長くスクールナースをしていたのでその頃の話になりますが、私が言ったことに対して、強く返答されることが度々ありました。「もう何言っているのか全然分からない!」と言われたこともあります。そのようなことが何度もあったので、それに立ち向かうのに色々な努力が必要でした。でも、難しいことを少しずつ克服することで、自分らしくやっていたらそれでいいと思えるようになりました。一番大切なことは、自分が何のためにやっているかだと思います。

これまでの、様々な背景を持つ子どもさんや大人の方との関わりは、私にとって一番の宝物です。文化的、社会的、経済的な背景により、誰しもその人にしかわからない苦労があることを学びました。それぞれの人生に対する尊敬の念が高まり、それが今患者さんと関わるときに役立っているのではないかと思います。一人一人の患者さんを大切にし、いつも謙虚な気持ちでお話を伺い、診療することを心がけています。

7. 今後の夢や目標はなんですか?

自分が健康で、できるだけ長くこの仕事が続けていけたらと思っています。東洋医学や鍼治療への理解は、アメリカではだいぶ深まりつつありますが、まだまだ発展途上だと思います。西洋医学と東洋医学、お互いが補足し合うような形で、人々の健康の増進や病気の予防、治療ができるようになることが私の夢です。多くの人にとって鍼治療が身近なものになり、気軽に治療を受けられるようになるといいですよね。これは、個人の目標というよりは社会に対しての私の思いですが、一個人の鍼灸師として 社会に貢献できることは、これからも一人一人の患者さんに全力で向き合い、一人でも多くの人に鍼を受けてよかったと感じてもらえるよう頑張ることの積み重ねだと思います。

 

8. アメリカにいて、やりたいことが見つからずに、もやもやしている日本人へのメッセージをお願いします。

私自身が信じていることにはなりますが、人はそれぞれ人生の中でやるべきことがあると思います。それが必ずしも職業とは限らなくて、ボランティア、家庭内のこと、または社会活動なのかもしれません。自分の心の中に強く感じられるものが、自分の人生の意味や自分のやるべきことにつながっている気がします。なので、強い気持ちを感じた時にそれを信じることがとても大事です。私も今回、色々なリスクがありましたが、強い気持ちを感じた時に頑張ってみようと踏み切ったことで新たな道を開くことができました。そして、強く惹かれる何かに出会った時には、少し怖くても、一歩を踏み出してほしいと思います。

Clear Spring Acupuncture: https://www.clearspringacupuncturemd.com/

★Interviewerのあとがき

私は日本で看護師をしていたので東洋医学に興味があり、今回、親近感を持って圓岡さんのお話を伺いました。一人一人の患者さんに誠意を持って対応し、元気になるお手伝いをしたいという気持ちがとても伝わってきたインタビューでした。アメリカに来て文化に慣れることに難しさを感じている方は多いと思います。私自身もその一人ですが、インタビューを通して人生の先輩からアドバイスをいただき勇気づけられました。ありがとうございました。

取材・執筆:マーク正恵

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