今回は、ニューヨーク州(NY)で、アーユルヴェーダサロン、Wild Lotus Ayurvedaを経営している久保みささんにお話を伺いました。
1.アメリカに来た経緯を教えてください。
高校卒業後にアメリカ留学をしたいと思い、ビザを取得するなど準備をしていました。ところが、父の仕事関係の韓国人の知人から、「自分が面倒をみるから」と韓国留学を勧められました。当時韓国は留学先としてあまり人気がありませんでしたが、韓国語を話せるようになれば将来役立つかもしれない、近い外国での留学も良いのではないかと思い直し、韓国留学を決めました。
韓国の大学を卒業後、東京で韓国系企業に就職しました。給料はよかったものの、上司のサポートが中心の毎日に刺激がなく、自分には合わないように感じていました。そんな時、高校の同級生だった今の夫がNYにいることを知り、韓国留学をして色々な事に興味がわいた私は、NYがどんなところなのかを知りたいと思い、NYを訪れました。3ヶ月で日本に帰国するつもりが、気づけば現在28年も滞在しています。
2.現在のお仕事、あるいは情熱をもって取り組んでいることは何ですか?
一言で言うと、ヨガとアーユルヴェーダ、ホリステックに生きることです。アーユルヴェーダはハーブを用いた食事法やヨガを取り入れながら、心と体を健康に保つ伝統医学です。
ホリステックに生きるとは、精神や身体、環境などが調和し、全体として人の健康を増進させる生き方のことです。例えば、皮膚の疾患がでた時に、皮膚だけを診るのではなく、食事、生活習慣、精神状態、心理状態等など身体、心、魂のつながりなど全体的な視点でみていきます。
アーユルヴェーダのサロンに来るお客様は、ホリステックに生きることを求めています。脈診をし、質問をして、どのような性格なのか、どんな風に物事を感じて考えて行動に移しているのか、どんなことに反応しやすい体質なのかを見ていきます。そして、お客様の中で本来のあるべき姿とずれている部分を伝えます。例えば、もともと「火の要素」が多い方が、辛いものを多量に摂っていると、「火の要素」が暴走します。暴走させないようにクミンを使ってご飯をいためてみる。飲み物をスポーツドリンクではなく、ココナッツ水に替える。ヨガならビーチヨガでなくて、森の中でのヨガを提案しています。また、ハンズオンセッションではその方に必要なオイル、スピード、圧を見極め、「火の要素」が落ち着くように進めてゆきます。
3.その仕事をすることになったきっかけは何ですか?
私が生まれて初めてニキビができたのは、娘が3歳の時でした。基礎化粧品を使ってみましたが、全然よくなりませんでした。なぜニキビができたのか疑問に思い調べていくうちに、化学薬品ではなく、アロマセラピー、アーユルヴェーダに行き着きました。学費の高さに迷いもありましたが、最終的に当時NYにあったアーユルヴェーダ学校に入学することを決めました。Dr. Naina Marballiに師事し、エステティシャンコース、栄養学コースを立て続けに受講しました。そして、ある日先生に「一人で学んで溜め込むだけではだめ、社会に広げて貢献しなさい」と叱咤されました。授業では電子辞書がないと内容を理解するのも難しく、英語を使って仕事をするなんて無理だと思っていました。
そんな時、近所で地元に愛されているクラスなどを提供しているビルの「小部屋を貸します」という広告を目にして、軽い気持ちで見に行きました。興味深いことに、ビルのオーナーと価値観が合い、「あなたみたいな人にやってもらいたい」と言ってもらえました。夫も賛成し、もしだめだったら辞めればいい、先生の言うことを信じてみようという気持ちになり、サロンを開くことにしました。
4.仕事の楽しい点、大変な点を教えてください。
NYにはたくさんのマッサージ店があります。その中で広告も出さず、日本人が経営しているサロンにメールで問い合わせ、来てくださるお客様がいます。「類が友を呼ぶ」という言葉のごとく、似た価値観や感覚を持つ人がホリステックに生きることに引き寄せられ、自然と集まっているように思います。ですから、お客様とのセッションの時間はすごく楽しいです。また、スタッフからも学ぶこともありますし、話す時間、学ぶ時間、企画をたてる時間、全てが楽しいです。
私はテクノロジーや経営に関する知識が乏しいため、新しいシステムの導入や使用が大変です。また、それらに関連するやり取りを英語で行うことには特に苦労しています。
5.アメリカ生活で、苦労したこと、日本に帰りたくなった体験などを教えてください。
日本に帰りたくなったことはないです。外国生活はあらゆる場面に苦労があると思います。他州に旅行に行った時はその州の法律の違いを知らず、大変なトラブルにあったこともあります。でも、苦労を辛いとも不幸だとも感じたこともありません。サロンをオープンするきっかけになったビルのオーナーやMarballi先生などに出会い、信頼してもらったおかげで今があり、感謝しかありません。
6.アメリカにきて、自分が成長したとおもえるような体験談はありますか?
毎日の経験、見聞きするもの、それらに対して感じること、思うこと、行動することのすべてにおいてが、自分を成長させていると思います。うまくいかない時は、後悔はしないけど、反省をすることにしています。後悔は自分の選択に負けたような感じがして、好きではありません。
7.今後は活動をどうやって進めていきたいですか?
今のままの姿勢で、流れに乗っていくことを心がけていきます。今を維持していくというわけではなく、興味のあることは追求していきたいし、流れに乗っていくことで、何か新たな挑戦をする機会も舞い込んでくると思っています。
8.アメリカにいて、やりたいことが見つからずに、もやもやしている日本人へのメッセージをお願いします。
アーユルヴェーダとヨガは、どちらもインド哲学最古の聖典「ヴェーダ」から派生しています。ヴェータ哲学の教えでは 自分に与えられたダルマ(責務)があると言われていて、それを全うして生きることが幸せだと考えられています。ダルマに気づくには、焦らずに自分の得意なことを磨く、好き嫌いにとらわれすぎないこと、内観力を高めることをお勧めします。社会の価値観に左右されたり、エゴで何かを求めていくのは、苦しみをともない、よくありません。自分の持っている能力が誰かの役に立つなど、自分も周りも心地よいことが大切だと思います。
久保さんのアーユルヴェーダサロンのホームページ:https://www.wildlotusny.com/
★Interviewerのあとがき
久保さんが大きな決断をした時、何度も直観を信じたとおっしゃっていたのが、印象に残っています。自分の経験や知識によってもたらされる判断だからこそ、後悔はなく、思い切って行動に移すことができるではないかと思いました。久保さんのように、知的好奇心を持ち、学び、自分の判断を信じて行動することで、やりたいことを見つけられるかもしれません。また、仕事のすべてが楽しいとおっしゃっていた久保さんは、仕事を趣味のように楽しめる方かもしれないと感じました。それは、自分の好きな事をして、成果がでて、成長を感じられ、仕事が楽しくなるという好循環を生み出しているからではないでしょうか。そして、自分の体質を知って、自分の体質にあった食物、運動、生活習慣を取り入れることによって、心身ともに健康でいられる、より良く生きるヒントを教えてもらいました。移転されたミッドタウンでの更なるご活躍を応援しています。
取材・執筆:ビュフター 一枝