私の生き方 in アメリカ

#16: その人の「らしさ」を大事にしながら異国での出産育児に寄り添う産後ドゥーラ  相原育世さん(MA)

10/2/2023 | 私の生き方 in アメリカ インタビュー

今回は、マサチューセッツ州で産後ドューラをされている、相原育世さんをご紹介します。

1. 現在のお仕事について教えてください。

産後ドゥーラ(DONA international認定)として産後ケアを専門に行いながら、日本で10年以上働いてきた助産師としての経験も活かし、ボストンに住む日本人女性たちの妊娠・出産・育児に関する総合的なサポートをおこなっています。また、ブルックライン市にある産科婦人科クリニックの医師の指導の下、日本人の妊婦さんを対象とした両親学級もスタートしました。ここボストンは、大学や研究機関が集中するアメリカ随一の学術都市ということもあって、様々な所属先から派遣された留学生や研究者が多くいる街です。比較的若い世代のご夫婦も多く、駐在のタイミングで既に妊娠中の方や、現地で妊娠をした方など、「初めての出産」をここアメリカの地で臨むという方が少なくありません。人生初のマタニティライフ、出産、そして子育て…。「初めてだらけ」それも「異国で」という、駐在妊産婦さんたちが抱える特有の悩みや不安に寄り添いながら、時には現地のソーシャルネットワークとも連携するなどし、多岐にわたるアプローチで支援を続けています。

2.アメリカに来たきっかけは?

2012年8月に夫の研究の仕事でボストンに来ました。最初のうちはビザの都合もあって就労することはできず、子どもの小中学校のPTOなどボランティアベースで活動していました。当初2年の予定でしたが、夫が現地で就職することを決めたため、永住権を取得。就労可能なステータスとなってから産後ドゥーラとして独立し、ビジネスを立ち上げて5年目に入ります。子ども達は大学生となって手が離れたこともあり、ボストンでのこれまでの活動をしっかりと根付かせていきたいと考えています。

3. 産後ドゥーラになられた理由を教えてください。

もともとは、2010年から続いている「ボストンマタニティーサポートグループ」という日本人の妊婦さんが集うコミュニティのボランティアメンバーとして、絵本の読み聞かせを企画したり、それこそ自身の助産師という経験を活かしながら産前産後の相談にのったりしていました。その時に、このグループのスタッフであり現地で長らくドゥーラとして活動されている女性から、「育世さんのやっていることって、アメリカでいうところのドゥーラという仕事だよ」と教えてもらって。日本の助産師としてこれまで蓄えてきた自分の知識や経験を大いに活かしながらアメリカの地で妊産婦さん達に専門的な支援を行うには…そうかドゥーラか!と、自分の進むべき道がパッと拓けたような感覚でした。産後ドゥーラの認定資格取得に乗り出したのはこれがきっかけです。

4. 産後ドゥーラの活動を通して日々どのようなことを感じていますか?

アメリカの産後ドゥーラの教育課程では、ライフステージのポイントポイントで当事者に寄り添いその人の一生をサポートするというドゥーラの意義を学びます。何もかもを手伝い単に身代わりになってあげればいいというのではなくて、悩みや不安の真因をきちんと捉えて、どうすれば一人でもできるようになるか、乗り越えられるのか、そして楽しめるのかというように、本人の自立を後押しするのがドゥーラの役目です。これは日本の助産師の仕事とも通ずるものがあると感じています。異国の地での出産・育児という一番大変かつユニークなライフイベントで、母国語である日本語でフォローがあり、情報がきちんとあって、家族みんなで頑張れるんだということを実感してもらえれば、これらの経験は単なる異国暮らし中の一時的なものでは終わらずに、日本に戻ってからの糧となっていくはずです。どうやって現地に馴染むかも大事ですし避けては通れないことですが、異国での経験を日本へ持ち帰って次へ次へと繋げて欲しいなというのが願いです。アメリカで経験した子育てのノウハウそしてスキルだけでなく、育児観や生き方観のその人「らしさ」も見つけてもらえると嬉しいです。

5. 心がけていることはありますか?

ご本人がどうしたいかということに重きを置きますが、同時に、パートナーの方の考えや価値観、家族単位での理想の形態なども大切な情報と考えています。その人に合ったそれぞれのサポートの形があり、また同じ人でも、フェーズやタイミングによって希望する支援の形が変わっていくこともあるので、やり方は一つの型にはめられるものではありません。言うなればオーダーメイド、その上でフレキシブルさも持ち合わせられるよう心がけています。駐在中の異国でのコミュニティは小さくなりがちです。密な関係性はかけがえのないものですが、育児の情報が固定化してしまうこともあるでしょう。もちろん、答えが見つかる情報が出てくればそれでよいのですが、まったく答えを持ち合わせないような悩みが共有されたときには、第三者を頼ってぐんと視野を広げて欲しいなと思います。

6. 今後の夢や目標を教えてください。

「ボストンマタニティサポートグループ」をNPO法人化し、安定した基盤の上に支援ができるようなシステムを構築できないかと、今動き出しています。このグループは、メンバーもボランティアも基本的にはみんな駐在帯同中の身で、引っ越しや帰国など家庭の事情でメンバーの入れ替わりが起こります。そのため、その時々のテンポラリーなコミュニティ構成に委ねているのが現状であり、場合によってはコミュニティが途絶えてしまうことになりかねません。母国語(日本語)で気軽に相談ができ、仲間が集える、情報が得られる、そして現地の適切なソーシャルネットとも繋がることができる…。そんな場を継続して提供できるよう、どういう組織やどういう人と協業すれば流れをつくれるのか、有識者にも話を訊きながら、実現に向け取り組んでいる最中です。

7. アメリカにいて、やりたいことが見つからなくてもやもやしている日本人女性へのメッセージをお願いします。

今は情報が沢山あってどんなこともなんでも調べられるからこそ、悩みが増えがちです。誰かと比較して、自分は出来ていないと落ち込む人も多いのではないかなと思います。でもぜひ、逆転の発想を持って欲しいです。単に、「自分は出来ていない」で思考を止めないで、「出来ないものが分かった」のだと捉えてみてはいかがでしょう。「出来ないものが分かった」ということは、こんなに沢山ある情報のなかから自分に合わないものを見つけられて、ちゃんと取捨選択できたという証拠ではありませんか!きっかけを掴めれば、新しいことに気づきチャレンジができるポテンシャルのある女性が多いというのは、私が産後ドューラの活動を通しても感じていることです。これならできる、やれる、やってみたい、と沸き起こってくる自分の気持ちに身を任せるかのように自然に進めればそれで十分だと思います。情報過多な社会のなかで、今の世代の皆さんが毎日のように繰り替えしているこの取捨選択をわたしはスキルと呼んで褒めてあげたいし、ぜひ自信に繋げていただきたいなと感じています。

Ikuyo Doula Services -ボストン産前産後ケアー
ボストンマタニティサポートグループ   https://www.facebook.com/groups/969857059715536/

★Interviewerのあとがき

異国での出産育児を母国語でフォローすることの大切さを誰よりも感じておられる育世さん。自らビジネスを立ち上げ個人ベースでの活動を続けながら、より持続可能な支援の在り方を模索し次なるフェーズを目指しておられ、お話を聞きながらワクワクしました。日本助産師会にも籍を置き、定期的に勉強会に参加されたり、アメリカや諸外国に住む助産師さんたちと頻繁に情報交換をするなど、日本の出産・母子保健の情報も常にアップデートして自己研鑽に努めておられます。育世さんの頼もしさ、そしてしなかやさが伝わってくる心温まるインタビューのひとときでした。

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